パワハラ上司な親にならないための「合意づくり」のコツは? 親子の関係を壊さないために

中山芳一

親はつい、子どもに色々とモノ申したくなるもの。しかし、子どもといえど一人の人間。たとえ親子であっても、考え方や価値観の違いがあるのは当然のことです。

親が自分の考えを押し付けすぎず、子どもと対等な関係を築くための心得を、中山芳一先生の著書『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』からご紹介します。

※本稿は、中山芳一著『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部抜粋・編集したものです。

合意づくりって大事!

合意づくりは「合意形成」といいます。私たち大人は職場やプライベートでも、いろいろな場面でこの「合意づくり」を行っています。
仕事での企画や計画、仲間内で一緒に集まって何かをするときも、私たちは一方的に決めつけたり押しつけたりするのではなく、合意づくりをしています。
もちろん、親子関係でも、よほどのことがない限り、お子さんが「NO」を出しているのに無理やりやらせることなんてありませんよね。

ちなみに、この「よほどのこと」とは、たとえばお子さんが明らかに危険なことをしている場合や、だれかの心や体を傷つけている場合などが該当するでしょう。
日常のやりとりで、「よほどのこと」はあまりないでしょうから、お子さんとの合意づくりは必ずと言っていいほど必要になります。

私たちは、外見だけでなく、各々別の人格を持って生きています。考えていることや求めていることも、それぞれに違っているのが前提でなければなりません。
それは、親子関係であっても同じなのですが、よくやりがちなのは、親と子がお互いに違う人格を持っているということを忘れてしまうことなんです。
さらには、子どもを親の持ち物のようにとらえてしまう人さえいます。


たしかに、18歳になるまでは親(保護者)がわが子を養護・養育しなければならないために、お互いが「護る・護られる」という関係だけに留まってしまいかねません。
私も3児の父親として気持ちはわかるのですが、これはとても危険なことです。
このような関係性が強くなりすぎてしまうと、自分の立場をよいことに、意見だけを一方的に押しとおそうとする「パワハラ上司」のような状態になりかねません。
最近は、職場でもだいぶ注意喚起されるようになりましたが、意外に見えにくい、わかりにくい、気づきにくいのが親子関係なので、気をつけていかなければならないですね。

それでは、お互いの意見や考えが違う中での合意づくりとはどういうことなのでしょうか? 
自分ひとりで決められるのなら話は早いのですが、ふたり以上になるとそうはいきません。
だからこそ、お互いに言い分を出し合って、すべての主張がとおるわけではないかもしれませんが、まさに折り合いをつけることが求められるわけです。

この際に「やってはいけないこと」は、「全否定」と「押しつけ」です。
ここで合意をつくるためには、前提としてお互いが対等でなければいけません。年齢や立場が相手より上に立っているからといって、相手に対してマウントを取れば取るほど、対等なやりとりはできないため、合意もつくれないでしょう。
大切なのは、その人やその子の年齢や立場ではなく、その人やその子の意見や考えそのものです。

どちらが言い負かしたとか、論破したとかではなく、お互いの意見や考えの違いがあるのが当然であることを踏まえて、お互いが言わんとしていることを共有していきましょう。
ひょっとしたら、こちらが思いもつかないような提案が出てくるかもしれませんよ。

対等な関係で合意づくりを!

子どもの権利条約の第12条に、子どもが意見を表明する権利について書かれていることはご存じでしょうか? 

【子どもの権利条約】
第12 条 意見を表す権利…子どもは、自分に関係あることについて自由に自分の意見を表す権利をもっています。その意見は子どもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません。

子どもは自分の意見を持つことができ、その意見を伝えることができます。
そして、大人たちはそんな子どもからの意見を受け止めることで、子どもが意見を表明する権利を守ることになるのです。

じつは、このときによく起こりがちなのが、「子どもの意見を受け止める」ことを「子どもの言いなりになる」ことと同じと誤解してしまうケースです。
ちょうど先ほどのマウントを取って子どもを言いなりにしようとする親とは真逆の状態ですよね。
これはこれで困ります。

たとえば、子どもがゲームをやりたいんだったらやりたいだけさせてあげようとか、お店の中で大きな声でしゃべりたいんならしゃべらせてあげようとか……その子の健康や生活習慣にとってよくないことであったり、周囲の人たちの迷惑になるようなことについては、仮にそれが子どもからの要望であっても、こちらから毅然とストップをかける必要があります。
子どもの意見を受け止めることは、子どもの言いなりになる、つまり意見をまるっと受け入れることとは必ずしも同じではないのです。

受け止めるのは、あくまでもその子の思いや考えを知るためです。
たとえば、「アイツがイヤなことを言ってくるからムカつく~っ!」と聞いたとき、その子の腹立ちをわかることができますよね。
そして、「そうなんだね」「それはイヤだったね」などの言葉をかけることもできるでしょう。

ところが、「だから、今からアイツのことをなぐってくる!」と言われたらどうでしょうか? 
そこで、「それがあなたの願いなら、気がすむまでソイツをなぐっていらっしゃい!」と返す親はさすがにヤバいですよね(汗)。
その子の腹立ちはわかり(受け止め)ました。しかし、なぐりたいという要望は認められ(受け入れ)ません。
受け止めると受け入れるにはこうした違いがあるのです。

お互いに違う思いや考えがあって、それぞれの意見がときにぶつかり合いながら、お互いが納得できる合意をつくっていきたいものです。

マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方

マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』(中山芳一著/日本能率協会マネジメントセンター)

2000年にノーベル賞経済学賞を受賞した、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授の幼児教育の研究がきっかけで注目され、日本でも2020年の教育改革の核として盛り込まれた「非認知能力」。

IQや学校のテストのように数値化できる認知能力に対し、非認知能力とは、「目標を達成するための勤勉さ」「意欲」「知的好奇心」「協調性」「自己肯定感」「表現力」など、数値では測定しにくい総合的な人間力を指します。健やかな心を育み、将来の幸せと成功につながることから、「あと伸びする力」とも言われています。

先行きが見えない現代社会では、約8割の親が「失敗しても立ち直れて成長できること」「自分の力で道を切り開けること」といった「非認知能力」の高い子に育ってほしいと願っているといます。

本書では、非認知能力について解説するとともに、マンガも交えながらわかりやすく家庭教育の中で非認知能力を高める方法を紹介します。